ラグタイム
「夕貴?」

藤本さんに名前を呼ばれ、あたしは我に返った。

「どうかしたか?」

そう聞いた藤本さんに、
「…何か悲しくなったんです。

あたしはもうすぐ『ラグタイム』を辞めるんだなって思うと」

あたしは正直に言った。

「まあ、朝貴が帰ってくるまでの期間限定だったからな」

藤本さんは言った。

最初は兄貴の代わりとは言え、『ラグタイム』で働くのは嫌だった。

ことあるごとに兄貴に早く帰ってこいと心の中で言っていた。

だけど今は不思議なものだな。

ここをやめるのは寂しいって思ってる。
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