今夜、上司と恋します


「……っ」


何回も、角度を変えながらキスをする。


そっと、離してから広瀬は潤んだ瞳で私を見下ろした。



「好きだよ、坂本。優しくする」

「……」


シュルっと、ネクタイを外す広瀬。
露になって行く素肌。


だけど、私の脳裏に浮かぶのはただ一人。



……佐久間さんだった。



「……坂本?どうした」




蛍。そうやって、佐久間さんは抱く時に私を優しく呼ぶ。


それを聞きたくて。


だけど、付き合ってもないのに佐久間さんの名前を呼ぶ事は出来なくって。



「……っ、ごめん、広瀬」



涙が次々に溢れて来て、両手で顔を覆う。
漏れるのは謝罪の言葉のみ。



バカだって思った。

体だけの関係なのに。


好きになった方が負けなんだって、最初に自分に言い聞かせた。
言い聞かせて、思い込ませて、絶対好きになっちゃダメなんだって頑なにそうなる事を拒んだ。



だけど、私は。



脱いだら妙に色気があるとことか。
優しく抱く手とか。


愛しそうに、「蛍」って呼ぶ声とか。




――――――そんな彼にいつの間にか恋に落ちてたんだ。

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