今夜、上司と恋します


認めたくなんかなかった。

だから、必死に自分に言い訳してたんだ。




素っ気なくしてたのだって、会社でなるべく言葉を交わさない様にしてたのだって。


全ては近付かない為だったんだ。


これ以上、近付いてしまったら。
距離が縮まったら。



私は好きだって自覚してしまうから。



「広瀬、ごめんっ」

「……」

「私、その人が…っ、好きなんだ」

「……」

「相手に好きな人がいるってわかってるのに、好きなんだ」

「……」

「だから、ごめん」

「……もう、いいよ」



広瀬は私の上から体をどけると、私に背中を向けた。


「……ひろ、せ」


体を起こして、背中にそう声をかける。
広瀬の体は小刻みに震えていた。



「……もっと、早くに打ち明けてたら。
俺達、何か変わってたかな」

「……」

「焦ってバカみてえ」

「……」

「……お願い、一人にして」

「……っ」


顔を手で覆っていたけど、広瀬の頬に伝ったのは涙だった。
それを見て息を呑む。


だけど、今私が何か言っても無駄だっていうのはわかってる。


傷付けたのは私なのだから。



私は最低だ。
真っ直ぐな広瀬の気持ちを、踏みにじってしまったんだ。



もっと早くに私が好きだって事を認めていたら、広瀬を傷付ける事なんてなかったのに。

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