今夜、上司と恋します

*



車に乗り込んだ後、佐久間さんが連れて行ってくれたのは“あの”居酒屋だ。
初めて二人が意気投合した、あの居酒屋。
そして、ホテル前に行く事が多い居酒屋。




「好きに頼むといい」

「……」



佐久間さんは特に気にしていないのか、メニューを私に渡してからおしぼりで手を拭いていた。
仕事が終わった後にここに来て、ホテルってのがこの居酒屋に来た時のお決まりだったのに。


佐久間さん、何考えてるんだろ。


少しだけ、期待してしまう自分がいて恥ずかしくなる。



「ビールと、枝豆」

「ふ、坂本はいつもそれだな」

「好きなんです」

「俺はウーロン茶だな」

「飲まないんですか」

「運転がある」

「あ。じゃあ、私も…」

「いい。俺の事は気にせず飲め」

「……はい」


佐久間さんは手を上げて店員を呼び、注文をしてくれた。
それから運ばれてきたビールジョッキを手に持つと乾杯をする。


「お疲れ様です」

「お疲れ様」


ぐいっとウーロン茶を飲んだ後、佐久間さんが口を開いた。

< 43 / 245 >

この作品をシェア

pagetop