レゾンデートル 【短編】僕止めスピンオフ・2



「新しい職場、前より合ってるらしいけどな」
「そっか。ならいいや」
「『ご心配要りませんよ、もう子供でもないんで』とか言いやがって、あの野郎」
「ああ、目に浮かぶわぁ…あいつ子供じゃないじゃん。子供の頃から」
「所轄の警部補に支持されてるとか言ってたわ。まだ入って3ヶ月なのにな」
「裕は優秀ですからねぇ…ねぇ、おとーさん?」
「ああ、俺の子だからな」

 フフっと苦笑して、そのまま隆はあくびした。明日も早い。隆は仕事場ではずいぶん前から現場の主任になっているので、給料はいいが仕事は多い。一緒に住んでいるからこうする時間がある。私が早く帰れる時は、簡単な晩御飯を作って待っている。互いに歳を取ってくると、外食もけっこう辛いものがある。とは言えまだ隆はギリ30代だが。

 いつの間にか寝息を立てて隆は寝てしまっていた。そっと腕枕を外す。

 あんなに嫉妬していながら、自分がなぜ裕を憎まずにいられたか、ほんとに不思議だ。会うまでは、殺してやりたいとさえ思ったこともある。私は嫉妬深い。それは生来のものだから仕方ない。それでも、初めて裕を抱いた日から、その感情がもっと緊張感のある、高揚感に似たなにかに変わってしまったのは事実だ。それを人は狂気とでも言うのかも知れない。その感覚は今でも少し残っている。でもその感覚は嫌いではない。自分すら投げ出して、崖から飛び降りるような感じと言っても良いのかも知れない。はっきりとした名前はつけられないそれは、自分が予測できる戦略的な未来を一旦否定して生まれる何かだと、私は思う。




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