レゾンデートル 【短編】僕止めスピンオフ・2



 それは先の見えない人生を生きているという不確定さを、初めて積極的に受け入れた、私のスタート地点だったのかも知れない。なんにせよ、様々な事態をコントロール出来てしまう知能と行動力に溢れた私が、唯一敗北したのが自分の隆に対する恋情だったのだ。

 裕がいなければ、私と隆は関係の可能性すらありえなかった。子はかすがいというが、本当だな、とこの血のつながらない我々3人の関係を見ていてそう思う。そう言えば、お前のこと、前に裕はお母さんみたいだって言ってたぞ、とあるとき隆が教えてくれたことがある。私はそれを聞いて爆笑した。お腹を抱えたまましばらく笑いが止まらなかった。慕われてたのか、と。爆笑しながら私はあれが母性というやつだったのかと、あとから気づいた。あの時の狂気の内訳の20%くらい、私は母性という名の大いなる贈り物に目覚めてたってわけだ。

 母性は凶悪だ。子供を守るためなら、敵を皆殺しにすら出来る。君はいろいろと私にくれるよね…裕。大丈夫。おとーさんは私が守ってあげるから。心配するなよ。

 でも君は…

 裕がまだ自分を死神だと思っているのだろうな、と、その時切ない気持ちになった。いつかその呪縛が溶ける時、君が本当に世界を受け入れることが出来るようになる時、君はどんな人間として我々と再会するのだろうか。

 その時は君から会いに来てほしいな、裕。

 同じことをきっと心配して、時に胸を痛めているだろう、隣で寝ている裕の父親の寝顔を眺めた。でもさ、君がいるから、我々は幸せなんだよ。それにしても、なんで血のつながらない赤の他人の子供がゲイのカップルにこんな効果を生んでいるのか、私は文化人類学者として、少々データを取ってみたくなった。

 それも学者の悪い癖だろう。データを取るまでもない。結局人間なんて、およそ変わらない。愛が変わらないのだからね。

 そう、我々は変れるはずもないのだ。愛のもとに。それが人類のレゾンデートル《存在理由》というものなのだと。





 -fin-





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