ウ・テ・ル・ス
スタッフは、心得たようににっこりほほ笑むと、注文票を確認して商品を取りに奥の部屋へ消えて行った。ミナミは、注文票をのぞき込むとそこに表記された住所を頭に叩き込む。すぐにスタッフが商品を手に戻って来た。
「間違いなさそうね。」
商品を確認するふりをするミナミに、聞きもしないのにスタッフが笑顔で答える。
「この製品に鈴を付けると言うお兄さまのご注文でしたが、本日お受け取りにいらっしゃるお時間までには必ず終わらせておきますので。」
「そう、よろしくね。」
スタッフにウインクをしてミナミは店を出た。彼女はアーティストになるより、スパイになった方がよっぽど大物になれる。
真奈美が眠りから覚めて、ゆっくりと目を開けた。見覚えのない大きなベッドにひとり。寝ぼけている彼女は、自分が何処にいるのかなかなか把握できないでいる。やがて、ぼやけている像が少しずつ焦点をあわせていくように、自分がなぜここに寝ているのかを思い出してきた。自分が誰かの赤ちゃんを産まなければならないということは、単なる悪い夢では済まされなかったようだ。しかし一夜明けた今では、だいぶ心が落ち着いている。実のところ、この心の再生能力こそが、彼女が借金の泥沼生活で生き抜けた最大の武器なのだ。いつまでも悲劇を引きずらず、朝になれば今日と言う日を新鮮に迎えられる。
ふと真奈美は憶えのある『香り』に気づいた。初めて彼のオフィスを訪れた時、真奈美の髪に触れようと近づいてきた秋良からかすかに感じたものだ。それが今では、秋良のパジャマを身につけ、秋良の枕に頭を横たえ、秋良の寝具にぬくもる。真奈美の全身が秋良の『香』に浸かっていた。不思議なことに、こんな状況なのに、妙な安心感が湧きあがってくる。理由はどうであれ、昨夜あいつは私を守ろうと、必死になって飛んできた。そして何よりも先に、私を胸の中にかくまったのだ。その時彼の腕に抱かれ、しびれるほどの安心感を覚えたことが、この香りとともに起想されるのだろうか。
真奈美はベッドから出て、寝室にある姿見の前に立つ。顔がむくんで酷い顔だ。泣いたせいか、まぶたも腫れあがっている。ベッドを整え直し、寝室のドアを少し開ける。誰もいる気配が無い。パジャマのままでリビングに出た。水を飲みにオープンキッチンへ行くと、テーブルの上にメモがあった。
「間違いなさそうね。」
商品を確認するふりをするミナミに、聞きもしないのにスタッフが笑顔で答える。
「この製品に鈴を付けると言うお兄さまのご注文でしたが、本日お受け取りにいらっしゃるお時間までには必ず終わらせておきますので。」
「そう、よろしくね。」
スタッフにウインクをしてミナミは店を出た。彼女はアーティストになるより、スパイになった方がよっぽど大物になれる。
真奈美が眠りから覚めて、ゆっくりと目を開けた。見覚えのない大きなベッドにひとり。寝ぼけている彼女は、自分が何処にいるのかなかなか把握できないでいる。やがて、ぼやけている像が少しずつ焦点をあわせていくように、自分がなぜここに寝ているのかを思い出してきた。自分が誰かの赤ちゃんを産まなければならないということは、単なる悪い夢では済まされなかったようだ。しかし一夜明けた今では、だいぶ心が落ち着いている。実のところ、この心の再生能力こそが、彼女が借金の泥沼生活で生き抜けた最大の武器なのだ。いつまでも悲劇を引きずらず、朝になれば今日と言う日を新鮮に迎えられる。
ふと真奈美は憶えのある『香り』に気づいた。初めて彼のオフィスを訪れた時、真奈美の髪に触れようと近づいてきた秋良からかすかに感じたものだ。それが今では、秋良のパジャマを身につけ、秋良の枕に頭を横たえ、秋良の寝具にぬくもる。真奈美の全身が秋良の『香』に浸かっていた。不思議なことに、こんな状況なのに、妙な安心感が湧きあがってくる。理由はどうであれ、昨夜あいつは私を守ろうと、必死になって飛んできた。そして何よりも先に、私を胸の中にかくまったのだ。その時彼の腕に抱かれ、しびれるほどの安心感を覚えたことが、この香りとともに起想されるのだろうか。
真奈美はベッドから出て、寝室にある姿見の前に立つ。顔がむくんで酷い顔だ。泣いたせいか、まぶたも腫れあがっている。ベッドを整え直し、寝室のドアを少し開ける。誰もいる気配が無い。パジャマのままでリビングに出た。水を飲みにオープンキッチンへ行くと、テーブルの上にメモがあった。