凪の海
「ええ、嘘じゃありませんよ。ほら、先輩も聞いてください。このネギとこのネギの違い。」
佑樹が汀怜奈の耳元で2本の長ネギを指で弾いた。
「違い…わかります?」
汀怜奈も一流の音楽家だ。音を聞き分ける耳は、人並み以上のものを持っている。僅かであるが確かに音が違う。ただし、それは個体の差ではなく、ハジき方の違いから生じるのだと言われたらそれに反論する自信はなかった。ましてや、どちらの音がいい野菜を示しているのかなどわかるはずもない。
「こちらのほうが、『痛い。』って大きな声で文句をいいます。だからこっちが元気でいい野菜なんです。」
「文句?」
「はい…。それに、この白菜もそうです。」
佑樹はふたつの白菜をそれぞれの手に取った。
「このふたつの白菜、大きさも重さもほぼ同じ、しかし揺すってみると…。」
それぞれの白菜を両手で掴んで揺すってみせた。
「ほら…、こっちの白菜の方がおしゃべりで、自分を選んだ方がいいって盛んに売り込んでますよ。」
「わたくしには、サワサワと葉っぱがゆすられる音しか聞こえませんけど…。」
「じいちゃんが言ってました。元気な野菜はおしゃべりなんだそうです。だからその音は、声になるんだって…。」
汀怜奈の心に、何かが引っかかった。
「ところで先輩、すき焼きに白菜入れましたっけ?」
問われても汀怜奈にわかるわけがない。困って佑樹を見上げると、彼は白菜を掲げてニヤニヤしながら汀怜奈を見つめていた。すき焼きの具に無知な汀怜奈に、彼が半分意地悪で聞いていることに気づいて、彼女も鼻先をツンと上げて開き直った。
「私に聞かないで、そのおしゃべりな白菜に、直接伺ってみたらいかがですか。」
商店街からの帰り道。野菜をいっぱいに詰め込んだエコバックを担ぐ佑樹の後ろについて、汀怜奈は黙りこくって歩いていた。
『楽器が声を出すなら、野菜が声を出すのも不思議な話しではないですわ。でもそれは、楽器や野菜の問題ではなくて、聞く人の耳の資質の問題なのかもしれません。結局、佑樹さんの耳が特別ってことなのでしょうか…』
汀怜奈は改めて佑樹の後ろ姿を眺めた。
『…それにしても、佑樹さんって、不思議な男の子ですわね。』
佑樹が汀怜奈の耳元で2本の長ネギを指で弾いた。
「違い…わかります?」
汀怜奈も一流の音楽家だ。音を聞き分ける耳は、人並み以上のものを持っている。僅かであるが確かに音が違う。ただし、それは個体の差ではなく、ハジき方の違いから生じるのだと言われたらそれに反論する自信はなかった。ましてや、どちらの音がいい野菜を示しているのかなどわかるはずもない。
「こちらのほうが、『痛い。』って大きな声で文句をいいます。だからこっちが元気でいい野菜なんです。」
「文句?」
「はい…。それに、この白菜もそうです。」
佑樹はふたつの白菜をそれぞれの手に取った。
「このふたつの白菜、大きさも重さもほぼ同じ、しかし揺すってみると…。」
それぞれの白菜を両手で掴んで揺すってみせた。
「ほら…、こっちの白菜の方がおしゃべりで、自分を選んだ方がいいって盛んに売り込んでますよ。」
「わたくしには、サワサワと葉っぱがゆすられる音しか聞こえませんけど…。」
「じいちゃんが言ってました。元気な野菜はおしゃべりなんだそうです。だからその音は、声になるんだって…。」
汀怜奈の心に、何かが引っかかった。
「ところで先輩、すき焼きに白菜入れましたっけ?」
問われても汀怜奈にわかるわけがない。困って佑樹を見上げると、彼は白菜を掲げてニヤニヤしながら汀怜奈を見つめていた。すき焼きの具に無知な汀怜奈に、彼が半分意地悪で聞いていることに気づいて、彼女も鼻先をツンと上げて開き直った。
「私に聞かないで、そのおしゃべりな白菜に、直接伺ってみたらいかがですか。」
商店街からの帰り道。野菜をいっぱいに詰め込んだエコバックを担ぐ佑樹の後ろについて、汀怜奈は黙りこくって歩いていた。
『楽器が声を出すなら、野菜が声を出すのも不思議な話しではないですわ。でもそれは、楽器や野菜の問題ではなくて、聞く人の耳の資質の問題なのかもしれません。結局、佑樹さんの耳が特別ってことなのでしょうか…』
汀怜奈は改めて佑樹の後ろ姿を眺めた。
『…それにしても、佑樹さんって、不思議な男の子ですわね。』