【反省は】玉の輿なのにやらかした件。【していない。】


「寝るときはいつもこうですが、一応女性の寝室ということで配慮はしましたよ。下は履いています」

 下に配慮できるなら上もついでに配慮すればいいのに、なぜ半身のみに配慮したのだろう。本当はこの人、馬鹿なんじゃなかろうか。

「ついでに聞きますけど、なぜ私のベッドにいるんですか」

 彼はかすかな笑いを漏らした。


「あなたに気付かれないようにあなたを監視するのがいけないのであれば、もういっそ堂々とあなたの監視をすればいいのかと思ったのです。この方法ならば誰かがあなたに近づいたときもすぐに分かります。
 僕も妻に気持ち悪いと思われるのは本意ではありません」

 開き直ったのか……。最悪だな。
 身内から犯罪者を出すまいとする私の努力を嘲笑うかのように、彼はストーカーからただの変質者に成り下がってしまった。

「監視はやめてください、なんのために靴を預けたと思っているんですか」

「そのあなたの靴ですが、少し臭いがきついようですね。ご実家から持っていらした白いスニーカーと合皮のブーツ。あんなものを部屋に持ち込まれては眠れません。新しいものを購入して古いものは廃棄しては?」


 景久さんはなぜかいたずらっぽい笑みを浮かべている。

 私は慌てて彼の部屋に入り、積み上げた靴の紙箱の傍にぽつんとおかれたブーツとスニーカーを嗅いでみた。
 スニーカーはスニーカーなので少々臭ったが、スニーカーなのだから仕方がないし、ブーツは昔、無職の彼氏が唯一プレゼントしてくれた2980円の記念ブーツだ。彼とのデートのたびに履いていたのでこちらも少々臭うが、部屋全体が臭くなると苦情をもらうほどの臭いではない。


「ね、臭いでしょう?」

 景久さんはなぜか得意そうな顔でそう言ってクローゼットからスーツを出して私の目の前で着替え始めた。

「ちょっと、まだ私がいるのに着替えないでくださいよ」

「僕の部屋で僕が何をしようが勝手です」


 ああ言えばこう言う。しかも今の景久さんは何があったのか、私をいびるのを楽しんでいるような感じだ。
 くそ……姑の居ない家に嫁いで嫁いびりとは無縁だと思っていたのに、なぜ夫にいびられてしまうんだ。


 昨夜、私がいないことを知ったときの豹変ぶりもおかしかったし、そのあとのキスもおかしい。そしてトドメに勝手に私の寝室に侵入して私のベッドで裸で寝ているというのもおかしい。
 そして極めつけはこの楽しそうな嫁イビリ。

 これまでの景久さんのあり方からは全く想像できないこの態度の激変ぶり。
 このパターンには私も覚えがある、ような気がする。



 はっきり言おう。これは小学生男子の愛情表現パターンに酷似している。

 この人、もしかして私のことが好きなのかな……?
 一瞬そんな考えにとらわれた私は一人で顔を赤くした。


「この靴は捨てません!バーカバーカ!!変態!ストーカー!」


 知的で切れ味鋭い皮肉を返すつもりだったのだが、私も寝起きということで上手い切り返しが思いつかない。しかし何も言い返さないのは癪に障る。私は結局小学生女子のような悪態をついて彼の部屋を後にした。

 私は景久さんと違って朱雀様のお世話をしなければいけない身の上なのである。大人しくいびられている場合じゃない。
 朱雀様のお世話に遅刻しかけたことが一度だけあるが、その時の榊さんの怒りオーラは大変なもので、何も言われないだけに変なプレッシャーを感じた。二度目はないようにしたい。

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