【反省は】玉の輿なのにやらかした件。【していない。】
「なるほど。それで私に……。私はまたてっきり、」
私はそこまで言いかけて慌てて口をつぐんだ。
私も一応女だ。プロポーズされたとなれば少しくらいは嬉しいし、プロポーズされた理由を自分なりに考えてみたりもする。もしかしたら自分はどこかで彼に見初められたのではないかなどとありえないことも考えた。
いや、自分が誰かに見初められるような美女で無いのは自覚しているけれど、もしかしたら……この男が年増のぽっちゃり系が大好物だとか……そういう可能性もないわけじゃないでしょ。
彼は私が何を言わんとしていたのか雰囲気で察したらしく、軽く私をにらんだ。
「僕があなたに結婚を申し込んだのは我が家のしきたりがあったからです。
しきたりなどと古いことを言うと思われるかもしれませんが、当家はそういう家ですし、僕もそのしきたりに従うつもりでいます」
「なるほど。事情は大体分かりました。
ところでしきたりは結構ですが、あなた、本気で私と結婚しようと思って求婚なさったんですか」
「どういう意味ですか」
「いや……私、こんなんですよ?」
「……」
求婚している立場の彼からは言いにくかろうと気を利かせ、私はあえて自分で言った。
「まあ、私って率直にいって……30歳で若くもないし、多分あなたよりも年上ですよね。で、私の容姿はこの通り、中の下か下の上。まあ広い意味でのブスですよ。
しかもただのブスならまだしも、小太りだし無職だし、学歴だけはまあ一応大学を卒業していますが、そんなの今時珍しくも無いわけです。
で、あなたは」
「景久です」
「景久さんはまあ、いわゆるイケメンじゃないですか。若いし、家柄は言わずもがな、学歴は世界で一二を争う有名大学。お仕事も順調で資産家。
そんなあなたがなにも家の祭祀のためにこんななんのとりえもない女と結婚しなくてもいいんじゃないですか?そのハイスペックでこんなブスと結婚するのは結構勇気がいると思いますよ?あなたなら、望めば女子アナとでも結婚できるのに。
あ、女子アナはお嫌いですか?」
彼は私のあけすけな言い方に少々戸惑ったらしく、しばらく黙っていた。やがて顔を上げる。
「女性アナウンサーをそういった視点から見たことがないので今の段階では好きとも嫌いともお答えできません。 今度そういった点にも注意してニュース番組を見てみることにします。
ところで、女性アナウンサー云々はともかく、僕はあなたを醜いと思ってはいませんよ。
美醜の判断基準は人それぞれですので、あなたがご自身の容姿について好感を持ってはいないということは十分に理解しましたが」
うん、でも「醜いと思ってはいない」って「美人だと思っている」と同義ではないですよね。
「そして、宗教観も人それぞれです。あなたは家のしきたりに従って結婚なんて、といいますが、僕は朱雀様を祀ることは個人的にとても大事な事だと考えています」
確かに宗教観は人それぞれ。神様に死ねと言われたら迷うことなく死を選ぶ人がいるのもわかってる。
でもねえ。
「べつに景久さんの宗教観をどうこういうつもりはありませんけど、誤解を恐れずに言わせて貰いますね。
あの、神様っていっても世界の名だたる神様じゃなくって『朱雀様』ですよ?」
彼は目を上げてじっと私の意図を探ろうとするかのように私の目を見つめた。その理知的な目と目が合うと、なぜか緊張してしまう。
「どういうことですか」