【反省は】玉の輿なのにやらかした件。【していない。】




 あの彼氏が私の財産すべてを持ち逃げ。
 いまだに信じられない。

 誤解しないで欲しいのだけれど、私の彼氏、巧(たくみ)はお金に汚い男ではなかったのよ。

 このご時勢にバンドマンと週12時間ほどのコンビニバイトで生きているのだから、彼はどちらかといえばお金に執着のない人だと思う。
 だって、普通、お金に執着する人は稼げる仕事に就くでしょ。
 それが三十半ばになっても週三でコンビニバイト。そんなアーティスト気質の彼がまさか同棲している恋人の家財一式を盗んで逃げるなんて普通は思わないわよ。


「どう考えたっておかしいんだよなあ」

 実家のコタツに足を突っ込んで首をかしげていると、母が怒鳴った。


「おかしいのはアンタでしょッ、十年近くも朱雀様のお世話をほったらかしたうえに、結婚もしないでいつまでも遊び歩いているからこういうことになるのよ!
 まああんたは昔から変わり者だったし諦めていたからいいけれど、あんただけじゃなく、長男までこんな事になってッ」

 母は駅で私を捕獲して以来、ヒステリックに怒鳴りつづけている。

 その母の長い長い説教愚痴まじりの説教を総合すると、どうも、いま、実家は火の車らしい。

 彼氏に退職金と家財道具一式を持っていかれてしまい、このまま東京にいたのでは当面の暮らしにも困る。そう考えて実家を頼ったまではよかった。
 でも間の悪いことに、私がこんな形で彼氏に捨てられると同時に実家の家族もそれぞれが金銭的なトラブルに見舞われていたのだ。


 弟の春彦は家業を継いで十代半ばから漁師をやっていたのだけれど、先月その商売道具である大事な船をつまらないミスで故障させてしまい、その修理代が急遽必要になった。船がなければ稼げない。でも船を直すのにはお金がかかる。漁師のつらいところだ。

 船の修理代。それだけでも結構厳しいのに、時を同じくして晴彦の彼女が妊娠したと言ってきた。

 弟は失業と同時にデキ婚が重なり、船の修理代と検診費用、ベビーグッズのために貯金を全額吐き出した。
 さらに母は母で近所の犬に噛まれてパートをやめ、とにかくまとまったお金をと焦るあまりマルチ商法に騙されて貯金を失ってしまった。

 こういうときに頼りになったであろう父は……、五年前に酔って海に落ちて亡くなっているので今はいない。

 これだけでももうおなかいっぱいだが、そこで不運は終わらなかった。

 トドメの一発として、今年は朱雀様の祠(ほこら)を新しくする年にあたる。
 朱雀様の祠を新しくするのに必要な費用はとびきり奮発をしても五十万そこそこの費用なので、普通の状態ならば出せないお金ではないのだろうけれど、今の我が家はそれさえも苦しいのだ。





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