【反省は】玉の輿なのにやらかした件。【していない。】
朱雀様というのは一般の人には馴染みが無いかもしれない。
これは私の実家周辺伝わる古い信仰で、代々家の娘がお社にお酒とお米を捧げて、毎日お社を拝むというもの。
朱雀様のお社の世話を担当している娘は「巫女さま」と呼ばれることになっているけれど、呼び名がさま付けになるだけでこれといって特典はないし、まじめに朱雀様のお世話をしているからっていい縁談が舞い込むわけでもない。
ただ、朱雀様信仰をやっている家はお社(やしろ)と呼ばれる小さな祠を二十年に一回新しく作り直さなくちゃならない。
定期的に祠を新しくしなければいけないのでお金はかかるしお世話は地味に大変だしでこの地域の朱雀信仰はもうほとんど廃れている。我が家以外で朱雀信仰をしているのは私が知っている限りでは八軒ほど。
朱雀信仰をやめたからって別に罰が当たったという話も聞かないし、もともと家に娘が生まれなかったら自然消滅するシステムの信仰なので、ウチも多くのご近所さんと同じようにもうこの朱雀様信仰自体を辞めてもいいんじゃないかと思うのだけれど、母がこの調子だものねえ。
「やっぱり、娘が家を離れたのがよくなかったのよ」
母は古い人間なので実家の経済危機が、東京に出てめったに地元に帰らず朱雀様のお世話をないがしろにしていた私のせいだと言う。
いまどき神様なんて本気で信じているらしい。
「ばかばかしい。私だってすぐ就職するし、そのうち彼氏だって自分の過ちに気付いて私に連絡を取ってくるわよ」
私はみかんをむきつつ毒づいた。
私の彼氏は元々気の小さい繊細な人だった。
かつて彼のバンドで音楽性の違いについてメンバー同士が喧嘩になったことがある。その時、彼は仲裁にはいるでもなし、一方の肩を持つでもなかった。彼はただ子どものように何も言えず涙を流していた。たかが口喧嘩でも仲間が傷つけあうのを正視できないくらい繊細でピュアな人なのだ。
そんな彼が人の退職金を持って逃げるなんてそんなこときるはずがない。きっとよほどの事情があったんだわ。
しかし母は彼の純粋さを知らない。だから彼を信じた私に対し、目を吊り上げてヒステリックな声をあげる。
「あんたは!またそんなのんきな事を言ってッ!
ああ、一番上の子はどこの家でもぼんやりだって言うけど、こんな事になるなら東京の大学になんて行かせるんじゃなかった。
別所の田村さんのところの嫁にって言われているうちが花だったんだわ……今からでも遅くないからあんた、田村さんのところにお嫁にいったら」
私は母の言い草を聞いて眉をしかめた。
別所の田村さんというのはかつてお見合い回数三桁を誇ったこの地元でも有名な元祖婚活男である。彼は確か私よりも18歳も年上だったはず。
かつて私が22歳くらいのときに、母が田村さんとの見合い話を持ってきたときはさすがの私も屈辱に震えたものだ。
母としては大学卒業間近の娘を都会でいつまでも一人暮らしをさせておいたらあらぬ噂の立つもとになると思ってそのような蛮行に及んだらしい。
その時に私は母と結婚観について話し合う機会を設けたのだが、「都会で一人暮らしをしている女はすべて水商売の女か金持ちのお妾さんである」という母、および近所のオバちゃんたちの認識を聞かされたときはめまいがした。