【反省は】玉の輿なのにやらかした件。【していない。】
「あのさ、あくまでたとえ話なんだけどね。
私が、今すぐ嫁に行っても、かよちゃんの気持ちは変わらないのかな。
……どう?」
「馬鹿なこと言うな。かよも俺もそんなこと考えてねえよ。あのイケメンがイヤなら無理しなくたっていい。
そりゃ……いずれは嫁にいってもらわなきゃ心配だけどさ。
姉ちゃんの好きになる男はいつもクズみたいな男だもんな、さっさと落ち着いてもらわないと」
「そうだよね……はは。姉ちゃんの前の彼氏、ひどかったもんね」
私は情けなさについ笑ってしまった。笑うしかない。
春彦は私が高3の時に私が付き合っていた人をぶん殴ったことがある。彼氏が私と私の親友、両方と同時進行で付き合っていたからだった。
その後、私は何度彼氏をかえてもやっぱり浮気だ借金だタカリだと歴代彼氏に泣かされてきた。そんな私を見て春彦もさすがにいろいろと悟ったらしく、いちいち私の彼氏に腹を立てるのはやめたようだ。
でも腹の底ではきっと私の男を見る目が腐り切っていることには気付いているのだろう。姉として格好悪いことこの上ない。
「ああ。姉ちゃんの歴代彼氏の中で今度のは今までで一番ひどいな。
彼女とはいえ人の家の家財道具全部持って逃げるなんて、完全に犯罪者じゃん」
「あの人はそんなんじゃないの!あんたは彼に会ったことがないから知らないかもしれないけれど、ただ、何か事情があって、」
私は思わず彼を弁護しようとして、そして口ごもった。
彼氏を弁護しようとしてみて初めてわかったが、彼には弁護する余地が一ミリたりともない。
そんな姉を見る春彦の視線は冷たい。
「やっぱ、姉ちゃん、あのスカしたお坊ちゃんと結婚したほうがいいんじゃねーの。前科がないだけあっちのがマシ。ちょっと坊ちゃん臭くて服も変だけどな」
「……」
服は変じゃないだろ。むしろ景久さんはおしゃれな人だ。
そもそも紫のパイソン柄に『†堕天子乃骸†』なんて刺繍しちゃうようなセンスの春彦に人のファッションを云々する資格などない。
ま、理由はともかく、恋人の家財道具と退職金を全部持ち逃げしちゃう人間はやっぱりどう考えても……クズよね。
元々男を見る目は無いんだし……犯罪者と宗教狂いを比べたら、景久さんはまだまし……なのかな。
あのまま彼氏が家財道具を持ち逃げしなきゃ、いずれは私、あのろくでなしと結婚していたんだ。それを考えたらぞっとする。
景久さんはちょっと、いやだいぶ変だけど、でも犯罪者ではない。ほんの少しだけ私とは宗教観が違うだけ。前の彼氏と結婚することを思えば随分上等じゃないか。