【反省は】玉の輿なのにやらかした件。【していない。】
私は自室でベッドに転がって苦悩した。
「あー……結婚かあ……」
景久さんって……イケメンなのにタイプじゃないんだよなあ……。
育ちがよすぎるせいか物腰も優雅で柔らかく品がいい。容姿も芸能人みたいに洗練されていて素敵。でも私はそんな完璧な人と一緒にいたら気後れして仕方がないわ。
私はもっとこう、毛深くてちょっとヤンチャそうな男の人が好きなのよね。少し前にはやったチョイ悪オヤジを想像してもらえるとわかりやすいけれど、少年の心を忘れないおとなげないタイプが大好物なの。
それに人生を共にするなら馬鹿なことを言い合って笑える人がいい。前の彼氏はそういう点で本当に相性がよかった。……まあ、向こうはそうは思っていなかったみたいで、結果的に逃げられてしまったわけだけど。
「姉ちゃんはすぐクズみたいな男にいかれちまうから」
春彦の言葉が胸の中に何度もよみがえってくる。
思えば大学に入ってから十年余り、私の付き合ってきた男はみんな、酒乱、ギャンブル狂い、自称詩人の無職ヒモ。いわゆる駄目な男ばかりだった。どうもおとなげなくてバカで駄目な男を見るとほうっておけない性分なのだ。
私だってぜひお嫁さんに!と人に言われるような立派な女じゃないから、そんな男たちが私に相応しいといえばそうなんだけど、私がろくでなしと結婚するのは自業自得だからまだいい。
でも自分で選んだわけでも無いのにそのろくでなしと親戚づきあいをせざるをえない母と弟はたまったもんじゃないわよね。弟はとくにかよちゃんやかよちゃんの両親の目があるわけで。
義理の兄が無職の自称未来の大スター。
義理の兄が朱雀様狂い。でもここ一帯で一番の名家出身で経歴も立派、知的で物腰穏やか。経済的にも安定している。
かよちゃんから見ればどう考えたって後者が良いに決まっている。
だめだ。身重のかよちゃんにこれ以上心配はさせられない。春彦がかよちゃんに捨てられるのも避けたい。
朱雀様だの何だのっていう彼の怪しげな発言は今のところ堂々と人前でなされるものではないし、家業を放り出して朱雀様にのめりこんでいる様子もない。そして信教の自由は憲法で保障されているんだから、彼に非は一切ない。少なくとも人の家財を持ち逃げするような人より随分上等だ。
今後、景久さんが熱心に朱雀様の話をしてきたとしても、私は一応、自分自身が巫女さまの立場であの信仰に慣れているのだから、突っ込みたい気持ちを抑えて聞き流せないこともない。……多分。