【反省は】玉の輿なのにやらかした件。【していない。】
私は自分の部屋を前にごくりとつばを飲み下した。
このあと私は部屋に入って寝なおす予定だ。実際、婚儀で疲れているので洋館に戻って温かいお茶とフルーツ、サンドイッチを頂いたらもう眠くなってきている。早く寝たい。
しかし私の部屋、つまり寝室に行こうと思ったら夫婦共有のリビングを通り抜けなければいけない。
景久さんは部屋にいるだろうか。いつもなら八時半にはもう会社に向かっているはずなのだが……。
入りづらい、しかし勇気を出さねば。いつまでもここに立っていたって景久さんが中に居た場合は彼が出るときに鉢合わせをすることになるのだ。
ええい。
私は腹をくくって真鍮製のドアノブを動かした。
ぎい、とかすかな軋みを響かせ、ドアが開く。
すると暖かなリビングで景久さんが本を手にソファに腰掛けていた。
彼は私が入ってきたことに気付くと本を置いて立ち上がった。
数時間ぶりに見る彼はもはやあの狩衣姿の貴公子ではなく、シャツにネクタイのビジネスマンスタイルだった。
「おはようございます」
彼は私のように気まずくなったりはしないのか、全く普通の様子で私を迎えた。
「おはようございます。
今日はまだ出勤しないんですか」
「あなたの顔を見てから出勤しようと思いまして」
意味深な言葉に私は条件反射で顔を赤くする。
「わ、私の顔、ですか」
「ええ。
眠そうですね」
「そりゃ……」
言いかけて私は顔を赤らめた。
婚儀だったのだ。それもリアルに野蛮な意味での婚儀だったのだ。しかも三夜連続で。
平均初婚年齢が十代半ばだった昔の新妻はそれでも平気だったのかもしれないけれど、30過ぎで、しかも運動の習慣の無い私に三日連続の婚儀はきつい。
「眠いだけで何事も無いなら結構です。それでは僕は出勤しますので、あなたはゆっくりと休んでください。三日間、お疲れ様でした」
いわゆる仕事モードというヤツなのだろうか。彼は婚儀の夜のあのどことなく甘い優しさを全く感じさせない。
「あ、いえ……そちらこそ、お疲れ様でした」
私はまるで上司に頭を下げるように一礼してしまってから、はっとあの白い狩衣の人を思い出した。
景久さんは本当に私の顔を見ればそれで義理は果たしたと言わんばかりにさっとジャケットを羽織って出て行こうとしている。
「景久さん、待ってください」
「はい」
「あの、変なことを聞きますけど、景久さん……白い着物の男の人を見ませんでしたか……本殿で」