【反省は】玉の輿なのにやらかした件。【していない。】
足音もなく消えたんです、
榊さんも知らないって言ってました、
でも婿様以外男子禁制の本殿にあんな形で男の人がいるなんて変だし!
私は景久さんが口を挟まないのをいいことに、あせって早口でまくし立てた。
もしかしたら私が寝所で感じた人の気配はあの男性のものではないのかと言いかけたが、さすがにそれはのぞかれていた可能性に言及しているともとられかねない発言なので、口に出してしまう寸前で何とか口をつぐんだ。
私だってこんな事疑いたくはないのよね。あの人……なんていうか、雰囲気がとっても清らかというか、浮世離れしている、そんな言葉がぴったりの人だったから。のぞきなんてするはずがないって感じ。
「……と、とにかく、そういうわけなんです!この家のセキュリティってやばく無いですかっ!」
話しているうちにすっかり興奮してしまった私は部屋の中央に置かれたテーブルをだん、と叩いた。
景久さんは困ったような顔をして首をかしげた。
「当家のセキュリティはかなり堅固なものですよ。生身の人間が侵入しようとして簡単にことが運べるほど甘くない」
「でも実際に、」
そう言いかけて私ははっと口をつぐんだ。
い、今、景久さんは『生身の』って言ったわよね……?
「あ、あのもしかして」
景久さんはにっこりと微笑んで頷いた。
「やはりあなたは察しのいい女性ですね。記憶力は人並みのようですが、頭の回転は速い。とても優れた資質です」
上から目線で教師のようなことを言うと、彼は満足そうにしている。だが私は自分が頭がいいとか悪いとかそんなことはどうでもいいのだ。話をそらそうとしているのか?
「私のことはいいんです、あの男の人のこと、知っているなら教えてください」
「ふふ、やはりごまかされてはくれませんでしたね。
おそらく、あなたはもう彼が何者なのか、大体の見当はついているのではないでしょうか。
……そうです。
あなたが見た狩衣姿の男性というのは『朱雀様』です。本当はずっと前から朱雀は本殿に住んでいましたが、巫女となる前のあなたには見えなかったようですね。
しかし、今のあなたは見える。
つまり朱雀様を見ることができたということは、あなたが正式に巫女さまとして朱雀様に認められたということです。
おめでとうございます」
お、おめでとうございます、って……。
私はあまりのことに呆然としてその場にぺたんと尻もちをついた。
「景久さん」
「はい」
「朱雀様が狩衣姿だと知っているということは、あなたは見えていたんですよね……?朱雀様……」
彼は小さくため息をつくと、本棚にもたれて頷いた。
「ええ、先代巫女さまがこの世を去り、当主不在となった時から、見えましたよ。
言ったでしょう、僕もはじめは朱雀なんて信じていなかった。けれど考え方を改めた、と……。
自分の目で見てしまっては、さすがに信じるしかありません」
「北条家の全員に、見えるんですか」
「……いえ、僕の兄にはもう見る事はできないそうです。彼は彼の巫女さまを亡くしてしまいましたからね。
それに、北条家の生まれであってもこの家の当主となる権利の無い分家の男子、そして女子には見えないようですね。
見えるのは北条家の当主候補と当主、それに巫女さまだけのようです」
「じゃ、じゃあ……あ、彰久、は…」
「見えているでしょうね。
彼は前当主の嫡男ですから、僕よりもむしろ当主に近い立場です。
改めて彼にそのことについて尋ねたことはありませんが、見えているはずです」
「……」
あれが、朱雀様……。
「か、神様なんて、初めて見ました……」
「僕も、先代巫女さまが亡くなるまでは見たことがありませんでした。あなたの気持ちはわかるつもりです」