君の声が聞きたい
桜の花が散り、すっかり青々とした葉が茂ってきたこの季節、朝とはいえ湿度の高い日はジワジワと暑さを感じる。
ジャケットは着ずにカーディガンだけで登校する生徒も増えてきた。
耳から聞こえる音質がいつもと違うことに違和感を感じながらボーッと駅から学校に向かう。
今朝は愛用のヘッドホンの調子が悪く黒に赤いラインのヘッドホンで妥協した。
毎日着用していただけあって、コードの繋ぎ目が接触不良を起こしていた。
ちょっと奮発して買った良いモノだっただけに密かにショックも大きい。
俺はシャットアウトしきれない外界のノイズに顔を顰めた。
前方に、最近よく目につく後ろ姿を認める。
視界に入った1人の生徒に顰めたままの顔で固まった。
1人でキョロキョロしながら歩くのは横山先輩。
先輩の脇をどんどん他の生徒が抜かしていく。
俺は溜息をひとつ短く落とすとグングンと先輩を追い越しにかかった。
先輩の方は見ずに気がついてないフリをする。
…何で俺はこんなに息を潜めているんだ?
湧いた疑問を打ち消すように首を振った。
「あっ、荒木くん!」
完全に抜かし終わった頃、よく響く声が俺の耳に届いた。
普段ヘッドホンでくぐもっていた声が今日は違って聞こえる。