アキオ・トライシクル~心理学入門編~
 食事を終えた好美に、彰夫は浜に散歩に出ないかと誘った。
「寒くなってきたし、もう家に帰って休みましょうよ。」
 そう言って帰宅を促す好美ではあったが、彰夫ははしゃぎながら彼女を浜に連れ出し、波の音が聞こえる砂浜に彼女の座る場所を設えた。この浜でテルミと出会った。同じ浜で好美にコーヒーをもらい、そしてテルミに陥れられたりもした。薄暗い三日月の月明かりを顔に当てて、今隣には好美が居る。
「好美…。」
「なあに?」
「受験がんばったよな、俺。」
「そうね。結果はとにかくやり終えたのは…偉い、偉い。」
「ご褒美くれない?」
 好美はとっさに胸元を両手で隠した。
「違うって…誤解するなよ。ただ膝枕して、頭をなぜて欲しいだけだから。」
「でも外では恥ずかしい…そんなこと家に帰ったらいくらでもしてあげるから。」
「ここがいいんだよ。」
 好美はしばらく眼をつぶって返事をしなかった。
「なあ、少しだけでいいから、膝枕してくれよ。」
 せがむ彰夫にもしばらく答えなかった好美だが、ようやく眼を開けて言った。
「いいわ、おいで。」
 好美は恥ずかしいのか、彼の頭を抱えると多少乱暴に膝の上に載せる。
「おい、怒っているのか…。」
「別に…。」
 語調とは裏腹に、好美はやさしく微笑を浮かべて、膝の上の彰夫の髪を撫ぜた。彼は安心して言葉を続けた。
「もうすぐ美大を卒業だろう?奈良へ戻るのかい?それともなにか計画はあるのかい?」
 好美は、彰夫の髪を撫ぜる手を止めず、また返事もしなかった。
「もしよければ、卒業しても一緒に暮さないか?」
 そすがに彰夫のこの言葉に、髪を撫ぜる好美の手が止まる。彰夫はその手を取ると優しく握りしめた。彼女の温かさが握った手から伝わってきた。言うなら今しかない。彰夫は、勇気を振り絞った。
「好美、一緒に家庭を作らないか?」
「好美って…いったい誰に言ってるの?」
 彰夫は跳ね起きた。
「テルミ…お前いつから…。」
「いったい誰にプロポーズしてるのよ?」
「久しぶりだね…。」
「なにが久しぶりだねよ。人に膝枕させて、いい気になってんじゃないわよ。」
 興奮して言っているうちに、テルミの黒い瞳に大粒の涙が溢れ出した。
「お前泣いてるのか?」
「黙れ、ばかやろー。彰夫は何も解っていない。」
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