俺様常務の甘い策略
だって数センチ先にあいつの唇があって……不覚にもすごくドキッとした。

思い出しただけで、赤面する。

「ぎゃあ~。ああ~、もうやだ!思い出しちゃった~!」

髪の毛をかきむしりながら、一人奇声を上げる。

落ち着け、落ち着くのよ、沙羅。あの状況なら誰だってドキドキするわよ。

藤堂なんかに翻弄されてたまるか!

「秋月さん、秘書室で変な声出さないで下さい」

田中さんが冷ややかな視線を私に向ける。

「悪かったわね。発狂するくらい忙しいんだから仕方ないでしょう?」

誰が常務室の新しい机や椅子の手配、本の片付けの依頼をしたと思っているんだ!

しかも、藤堂の社内のIDやメールアドレスの申請まで私にやらせて……。

「私が暇だって言いたいんですか?」

田中さんが顔をしかめながら私をキッと睨む。

私が肯定の意味で無言で彼女を見据えると、彼女は口を尖らせた。
< 58 / 299 >

この作品をシェア

pagetop