フィルムの中の君
初めて君を見たときから…
確かに昴の耳にはそう聞こえた。
「やっぱり優くんも私と会ったときのこと覚えてるんだ…」
長い髪の毛を洗いながら正面にある鏡を見る。
小学生のとき…どんな感じだったっけ?
今とはかなり違うような、あまり変わらないような…
自分ではわからないことをもんもんと考えながら湯船に浸かっていた。
わからないことはわからない。
何て言おうとしたのかなんて本人に聞けばいいことだよね。
『そう…あなたにはわからないわよ』
いつの間にか昴の頭の中はドラマのことでいっぱいになっていた。
昴本人も無意識のまま台本の内容を呟いている。
『だから言ったでしょ。
世の中ろくな人間なんて…』
無意識とは怖いもので自覚が無いから長時間湯船に浸かっていることも自覚をしていない。
昴ー!いつまで入ってるの!
という水島の声が無ければ昴はずっと湯船の中に浸かり続け、果てには逆上せていたであろう。