俺、兄貴になりました③
「慶くん、準備できた……あれ?慎くん」
「愛ねぇ、おはよー」
慶くんの部屋に入ると、中学三年生になった、末っ子の慎くんがいた。
外見は逞しく成長したけれど、子供のような笑顔とおふざけ好きのところは変わらない。
「慶にぃに辞書貸してもらってたんだ」
そう言った慎くんの手には、英語の辞書が。
そっか。
今年受験だもんね。
なんでも、尚くんと野球がしたいからと、同じ高校を受験するとか。
ホントに尚くんに懐いてるよね。
前に、尚くんを尊敬してるって言ってたっけ。
野球は全部、尚くんをお手本にして練習してるんだって。
「じゃ、俺も行かなくっちゃ」
慎くんが部屋を出て行こうとドアノブに手をかける。
と、そのまま止まった。
どうしたんだろうと、慎くんを見ていると、ニヤッと笑った慎くんが振り返った。
「イチャイチャするのは程々にねー!」
「おいコラ!慎!!待ちやがれー!!」
「やだよーっだ!!」
ドタバタと部屋を駆け出して行った二人に対し、私はポカンとしたまま。
そして聞こえてくるのは、兄弟の騒がしい会話。
「コラお前ら!朝から走るんじゃねぇ!!」
「だって慶にぃが追いかけてくるんだもん!!」
「お前が逃げるからだろ!!」
「「ちょっとー、落ち着いてご飯食べられないじゃん。静かにしてよねー」」
「それ双子の兄貴達に言われたくないんだけどっ!!」
「ほら慶も早く食べないと遅刻するよ」
「…わかったよ、翠にぃ」
「俺も早くしないと、桜待たせちゃう!」
「「遅刻はダメだよ。ルールは守らないとね」」
「ルール破り放題のにぃ達がそれを言う?」
「「おう……陽くん厳しいツッコミね」」