風は囁く「君と輝きたいから」
それだけじゃない。

詩月さんは、自分のことを半年以上も苛めている人に、笑顔で「二重奏をしようよ」なんて、俺なら絶対に言えない。

詩月さんの見た目の頼りなさや華奢さとは、正反対だと思う。

俺は「彼は強いわね。何かあるごとに……」とポツリ言った桃香さんの言葉を思い出していた。

動画の中で、自分自身のことやお母さんのことを話す詩月さんの一言一言は、さらり話せる内容でも、聞き流せる内容でもないのに……。

詩月さんはまるで、週刊Faceの記事に挑戦するみたいに、宣言していた。


――「母の音は……僕がこの指で、母の思いは……僕が奏でる」

すごい気迫だと思った。

週刊Faceの「母親の薬が原因」という部分が、詩月さんの決意宣言に色褪せてしまったなと思った。


「命短し恋せよ乙女~♪ 」

俺はパソコンを閉じながら歌う。


< 138 / 325 >

この作品をシェア

pagetop