夢色約束
バタンッ

ガチャ

勢いよく部屋に入り閉じたドアは、すぐに開けられた。


「「……」」


沈黙が続く。

私は怒ってるんだもん!

絶対に話しかけたりしないから!


「……香里奈」


「……」


「怒ってんの?」

怒ってるよ!


「……」


「香里奈ー」

光が顔を覗き込む。

私は顔を背けた。


「なに怒ってんの?」

なに怒ってんの?じゃ、ないわよ!


「……」


「おい」


「……」


「はぁ……ったく、」

ため息吐きたいのはこっちだから!

熱あるんだから、普通家にいるでしょ!

迎えなんていいよ、寝ててよ!


「悪かったって」


「……なにが」


「どうせ、俺が迎えに行ったから怒ってんだろ?」

わかってるじゃん。


「……わかってるなら、なんで来たの」


「もう熱下がったし、車だったから、迎えくらいどうってことない」

どうってことあるわよ!


「ぶり返したらどうするのよ!」


「大丈夫だって」


「大丈夫じゃない」


「なにそんなに怒ってんだよ」


「……だって、」


「ん?」

ズルい……

いきなり、そんな優しい声、だすとか…

言わなくちゃ、いけなくなるじゃん……


「初めて、だったんだもん」


「なにが」


「光が、熱出すとか、倒れてるとか」


「……まぁ、そうだな」


「怖かったんだもん」

本当に怖かった。

名前を呼ぶことしかできなくて、どうすればいいのかとか、わかんなくて……。

光は、いつも看病してくれる側で。

熱とか、全然出したことないし。

倒れるなんて、予想もしてなかった。

それほど、無理してた。ってことなのに私は気付けなかった。

それが、悔しくて……


ポタッ

太ももの上に握りしめた拳。

その上に雫が落ちた。

え……

私、泣いてる?


「香里奈……」


「……」

唇を噛み締め、泣くのをこらえようとする。

でも、涙は留まることを知らず、ただ、流れ続けた。


「香里奈」


「……っ」

ぎゅ


「ごめん。香里奈」

横から回ってきた腕。

すぐ隣に感じる体温。

少し前まで同じくらいだったのに、いつのまにか、私よりもずっと大きくなっていた。


「ごめん」


「無理、しないで」


「ん」


「もう、あんなのやだよ」


「ん」


「怖かった」


「ん」


「ちゃんと、休んで」


「わかった。わかったから」

宥めるように言った光の腕は温かかった。
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