『私』だけを見て欲しい
「泰良も同じ気持ちだったんだよ。私やあんたに余計な心配をかけたくない。でも、上手く息を抜けなくて体調を崩した。それで、私や先生が知ることになっただけ…」

「学校はどうするって…?」

ベッドの中から出なかった泰のことを思った。
布団の下であの子は、どんな苦痛な表情をしてただろう…。

「先生は、子供たちの様子をよく見ておきます…って。必要がある時は、指導もしますって…」
「…先生が言ってる事は…アテにできないよね…」

それは一番、私が知ってる。
先生達はいつだって傍観者。
最後に自分を助けてくれたのは、家庭の温もりや仲のいい友達の存在だった…。

でも…そのどちらも、泰には欠けてたのかもしれない。


「お母さん…」

今まで、いろんな事を助けてくれた。
これからは迷惑をかけずにいたい。
泰のことも自分の事も、きちんと、責任の取れるオトナになりたい…。


「私…今の会社辞める…。もっと自宅に近い場所で働くから…」

大好きだったディスプレイの仕事。
商品の陳列も電話注文を受けるのも、梱包を外すのも、値札を付けるのも……
全部、全部、大好きだった…。
新しい物が一番最初に見れる。
ワクワクしながら開ける段ボールの箱。
クリスマスプレゼントを開ける時の子供のような気持ち…。
その全てを、放り出すーーーー


「…お母さんが退院したら、退職願出す。…暫くは仕事しないで、泰を見守る…」
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