『私』だけを見て欲しい
長椅子にマネージャーを横たえた。
その横に寄り添う。

怖さからブルブルふるえが来る。
その手を握られた。

「大丈夫…心配しなくていい…ただの…狭心症発作だから…」

「狭…心…症…」

聞いたことある。
急に発作が出るって。
でも、実際見るのは初めて。
こんなに急に出るものなの…?


「お前が……俺を不必要だと言うから…」

声が小さい。
だるそうだ…。

「…マネージャー…話さない方が…」

唇が抑えられる。
いつかのように、指先が触れて、息が自分に戻る。

ドキドキの色が変わってく。
怖さが甘さに変わる。

目の前にいる人が…具合悪いのに…。

『…きゅん。』

胸が鳴いた。
恋に落ちてく瞬間の音。

やっぱり他とは譲れない。

この気持ちは…
『私』だけのもの…


「…好きです…」

口走った。
いつかのように、思いだけが優先する。
何も考えれない。

この人しか…
見えない……


「マネージャーが……山崎さんが好きです…。だから…死なないで……」

大げさに涙が流れてくる。
『私』が顔を出す。
仮面なんか、つけてられない…。

…子供みたいに泣きだした。
この間の泰のよう。
抑えられない気持ちが噴き出す。
涙と一緒になって、想いが募る…。

「…死んじゃイヤ…生きてて…!」

体にしがみついた。
相手は発作が出たばかりなのに。


「結衣……俺は死なないよ…」

髪に触れる。
優しく撫でる。

< 138 / 176 >

この作品をシェア

pagetop