『私』だけを見て欲しい
…ぼんやりと仕事してた。


病院から自宅に帰った母は、やれやれ…と大きな欠伸をした。

「お母さん…あのね…」

彼が遊びに来てることを話そうかと思った。
でも、何故か話せなかった。
母に反対されそうで、怖くてどうしても言えなかった…。

(いいやもう…今夜で…)


何も言わずに職場へ来た。
紗世ちゃんは黙々と仕事をこなしてる。
以前に比べると、少しだけ自覚が出てきたみたい。
月末までもう1週間。
なんとかなるかもしれない。



「ふぅ…」

休憩室の壁にもたれて息を吐いた。
休憩時間は15分。ローテンションで休む。


「お疲れ」

彼の声に顔上げる。
同じくらいの時間に取ろう…と、この間から約束してた。

「お疲れ様です…」

会えて嬉しいのに気が重い。
きっと、あの言葉のせいだ。

「お母さん退院したんだろ?どう?調子は…」
「元気いっぱいです。伸び伸びしてました」

左手のマヒは、リハビリで大分良くなった。
これまで通りの生活も、難なく送れると思う。

でも、ムリはさせたくない。
だから、やはり仕事は辞めないと。

「…そう言えば、『美粧』の加賀谷さんと病院で会いました。定期検診にいらしてて…」
「えっ…⁉︎ 」

何⁉︎ その驚きよう…

「どうかしましたか?」

隣にいる人の顔が固まる。
気になることでもあるんだろうか。

「いや…病院嫌いが珍しいな…と思って。…それで?検査か何か受けてたのか?」
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