『私』だけを見て欲しい
「はい…胃カメラの検査室から出てこられましたけど…」
「胃カメラ…」

複雑な表情。
いったい何が気になるの…?

「マネージャー…どうかされましたか?加賀谷さんのことなら大丈夫ですよ。お元気そうでしたから…」

ドキドキしながら教える。
彼の態度が違う。
それが分かる。

「そうか…まあ特に心配とかしてないけどな…」

ゼッタイそんなふうに見えない。
気にしてる。
この人達の間には、やはり入り込めない何かがあるのかも…。

「…フロアに戻ります…」

あまり親密に話し込んでたら、ヘンな噂が立ってもいけない。
この人は上司。
ただ、気持ちが同じってだけ。

「…佐久田さん…」

『結衣』と呼ばれる時と同じような声のトーンに振り向く。

きゅん…と鳴る。
この一瞬が、すごく切ない。

「…何ですか?」

お願い事のある顔じゃない。
コイビトの顔してくれてる。
それが分かるから、余計に胸が苦しくなる。

「今日は無理だけど…近いうちお祝いに行くから…」

母の退院祝いのことね。

「…分かりました…」

ぽそっと返事して逃げる。
母には話せてない。
話していいのかすらも迷ってる…。


悩みながら仕事する。
一生懸命になんてやりたくない。
それだけが自分なんだと思いたくない。

聞きたくなかった。
知りたくなかった…あんな言葉。

『どんなお前も好き』

それは…『どんな時も一生懸命頑張る私が好き』ってこと。


それだけが…『私』じゃないのにーーーー


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