『私』だけを見て欲しい
「あのさ…昨日のお礼の件だけど…」
「ああ、…その場限りの彼女依頼ね」

少しだけトキめいたわーと、冗談みたいに言った。

「…あの…ホントにその時だけでいいんで、お願いできませんか⁉︎ 以降は決してムチャぶりしませんから…この通り…!」

拝む様に手合わせる。

「あのね…昨日も言ったけど、私じゃ嘘だってすぐにバレるよ⁉︎ 秘書課のおネェさん達は、私よりもキャリア長いんだから」

社員情報網羅してるって噂、聞いたことないの⁉︎…と尋ねた。

「聞いたことあるっす!…でも、皆怖がって引き受けてくんなくて…。佐久田さんなら適任かなぁ…って」

ヒドい話。
バツイチで子持ちなら、何でもできると思われてるんだ。

(それに、その場だけ紹介して、後、何もなかったら、皆、当たり前だって思うだろうしね…)

一般的な女性の立場としては、かなり卑屈になりそうな感じだけど、昨日は助かったし、たった一晩だけなら、まあいいか。

「いいわ。じゃあ1日だけ引き受ける。でも、誰も信じてくれなくて、言い寄られても知らないよ⁉︎ 」

ホンモノの彼女じゃないんだから。

「イイっす!助かります!恩に切ります!」

神様、仏様、佐久田様…って、いい加減なもんだ。

「…ところで、さっき、ディスプレイ見に来たって言ったでしょ⁉︎ 」
「あ…そうっす!外商部で噂になってたから、見ておこうと思って…」
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