『私』だけを見て欲しい
(紗世ちゃん…あんた、幹事役に陶酔仕切ってるでしょ⁉︎ )

心の中でツッコんだ。
ここまで来ると何も言えない。
今更、言葉を引っ込めるのもヘン。

「2人の仲に乾杯しましょー!ほらほら、センパイもー!」

紗世ちゃんにグラス持たされて、お局様がイヤイヤ乾杯の輪に入る。
困惑したまま鳴るグラス。
隣に座ってた『れんや』君から、ウインクまでされた。

(ははは…念入ってるなぁ…)

弱り顏でスマイル。
今の私にできる精一杯のカノジョ顔。

こんな疲れる飲み会、初めてだ……




「ふぅ…」

トイレの洗面台の前で大きなため息をつく。
宴会が始まって1時間。やっと『れんや』君の隣から解放された。

(これ…何時までやらされるんだろ…)

会社の全体会としては、後1時間もすれば終わる。
その後、流れで二次会とかあったら、それこそ迷惑だ…。

(なんとか全体会だけで逃げるようにしないと…)

『れんや』君のウソについてけない。
あの人には何でもないことでも、私にとってはウソっぱち。
付き合いもしてない人のことを、知ってる範囲で褒めるだけで精一杯だ。

気持ちを切り替えて会場に戻る。
楽しそうに皆飲んでる。
その中に、山崎マネージャーの姿があった。

(あれ…マネージャー参加してたんだ…)

名前があった事すら覚えてない。
自分のフロアと下のフロアを取り仕切る、統括マネージャーなのに。
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