『私』だけを見て欲しい
テーブルの上に置かれたトレイの中身を見る。
ご飯とお汁に、副菜はきんぴらレンコン。主菜は豚の生姜焼きと魚のマリネの両方が、サラダ付きで乗ってて、おまけにデザートの白玉ぜんざいまで付いてる。

「…こんなに私、食べきれないよ」

自分で作ったお弁当もあるのに…と持ち上げた。

「そっちはオレが責任持つっす!佐久ちゃんは遠慮なくそっち食って下さい!」

お弁当の包みを取り上げられた。
困り顔で彼を見つめる。
『れんや』君は隣に座り、嬉しそうにお弁当を広げた。

「わっ!スゲぇ…!」

目を見開く。

お弁当の中身は唐揚げと卵焼き、人参のサラダにブロッコリーの胡麻和え。ついでに黒豆煮を少しだけ入れた。
今日のお弁当は自信作。
珍しく人前に出しても恥ずかしくないような出来栄えだった。

「色キレぇ!ウマソー!」

何かの本で読んだ通り、五色の食材を入れて作っただけ。

「美味しいかどうかは知らないけど…れんや君、そっちも食べるんでしょ⁉︎ 」

自分用に買ってきてる特Aランチセット。
両方食べきれるのかと心配になった。

「ダイジョーブっす!全然余裕で入ります!」

いただきます!と手を合わす。
そこへ後ろから声がした。

「おっ!弁当か⁉︎ …いいなぁ…」

聞き慣れた声に振り向く。柔らかい前髪の隙間から見える眼差し。
山崎マネージャーが、私の横に立ってた。

「それ誰の⁉︎ …もしかして佐久田さん⁉︎ 」

ちらっとこっち見る。

「は…はい…そうです…」

緊張気味に返事。
人前にお弁当を出すことなんて滅多としないことだから。
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