バゲット慕情


*****


「て、店長、あの……ノート、どうも、ありがとうございました」


 二月二十八日の午後二時半だ。

これから華のバゲットを作り始めようという園田が、美智子に、父のタイガーノートを返した。


「けっこう役に立つでしょ、これ。

コピーはとったの?」


「あ、いえ、はい……」


 どっちなのよ。

美智子は呆れ、聞き流した。

どうでもいいところまで突っついているのでは、園田の雇い主は務まらない。


 重く湿った曇り空が、朝からずっと続いている。

こんな陰気な日には、喫茶店へ出向いてみようという気も失せるらしい。

今日はまた一段と客が少ない。


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