押してダメでも押しますけど?
2 不機嫌の理由
「立川さん」


いつもの様に出社すると副社長に声をかけられた。


「はい。」


いつも外に出ている副社長とはあまり接点がなく、声をかけられること自体珍しい。


「今日からしばらく俺に付いて。」


「へ?」


「俺の秘書をやって。」


「・・・社長の秘書はどうなるんですか?」


そう尋ねると、副社長はため息をついた。


「ちょっと、面倒な事になってね。今日から別の人が来るんだ。」


別の人?


何故か胸の奥がギュッと締め付けられた。



「あ、あの私・・・」


「言っとくけど、立川さんに問題があるわけじゃない。」



私の心が読めるかの様に言った。


「まぁ、そのうち分かる事だから、立川さんには先に説明しておくよ。

 今日から社長に付く事になった秘書は、ある国会議員の娘さんなんだ。

 社長をどこかのパーティーで見かけて一目惚れしたらしい。それで、社長の父親に縁談を持ちかけたって話。

 社長の父親も断ろうとしたらしいんだけどね、相手が居ないなら会って見るだけでもって押し切られたらしい。」



「その人が、どうして秘書になるんですか?」



「元々、どっかの企業で秘書をしていたらしい。

 社長が会う『暇がない』って言ったら、じゃあ、『秘書として雇ってください』と言われたらしい。」



凄い押しだな・・・・


あれ、どこかのパーティーで一目惚れってことは・・・



「その人って社長の性格ご存知なんですか?」



「・・・いや、知らないと思う。」



性格が悪いとは言わないが、見た目とのギャップはかなりある。



外見で一目惚れしたのなら、社長の性格を知ったらどうなるんだろう?


「大丈夫ですかね?」


「まぁ、秘書としては優秀らしいから、大丈夫だろ?

 それに、その他は、俺の知ったことじゃない。」



冷たい言い方だが、確かにそうだ。



仕事に支障がないのなら私には関係ない。



そう思うのに・・・



「とにかく、立川さんはしばらく俺に付いて・・・

 よろしく頼むよ」


「・・・・はい。」



しばらくっていつまでですか・・・・


思わず出そうになった言葉を飲み込んだ。
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