押してダメでも押しますけど?
「ホント、元のやつどうしようもないよな・・・」

仕事中は『社長』と呼んでるけど、学生時代からの友人でもある二人は、プライベートでは名前で呼び合っている。


「副社長は、社長が機嫌が悪い原因わかるんですか?」


「え?まぁ、本人にはっきりと聞いた訳じゃないから・・・」



適当に誤摩化す副社長に、思いきって聞いてみた。


「やっぱり、カステラが無いからですかね?」


「ぶっ!!!」


副社長が盛大に吹き出した。


「立川さんは、元の機嫌が悪いのはカステラがないからだと思ってるの?」


「え?違うんですか?じゃあ、チョコですかね?」


「立川さんって面白いね!」


そう言って副社長は笑い始めた。


「そういえば、立川さんって元のことどう思ってるの?」


しばらくして、やっと笑いが収まった副社長が、涙を拭いながら聞いて来た。


私、涙が出るほど面白いことなんて言ったかな?


そう思ったけど、それよりも副社長の質問の意味がわからない。


「どう思ってるって、上司としてですか?」


「上司だと思ってるなら、上司としてで良いよ。」


そう言って、意地悪に笑った。


「・・・いい上司だとは思いますけど。」


「わがままばっかり言ってるのに良い上司なんだ。」


副社長は、増々意地悪く笑う。


「確かに、子どもっぽい所はありますけど、良い上司ですよ。」


「ふ〜ん、子どもっぽいね。確かに、あいつは子どもっぽいとこあるよね。」


そう言って、副社長はすこし考えるような仕草をした。



「立川さんは、どうして、元が機嫌が悪いのかって聞いたよね。」


「はい。」


「じゃあ、1つヒントをあげよう。」


「お願いします。」


「あいつは、大人の男だよ。」


「・・・そんなことわかってます。」


「いいや。立川さんは分かってないよ。

 今、あいつが足りなくてイライラしてるのは、カステラでもチョコでもない。もっと別のモノだよ。」



「・・・・もっと別のモノ?」


「そう、ヒントはあいつが大人の男だってこと。

 いくら、あいつが我が侭で子どもっぽくても、ちゃんと大人の男だってこと。」



「・・・・」



全然分からない。



「考えてやって。」


「・・・はい。」


そう返事はしたものの、結局思い当たるものはなく。



コーヒーなら、カステラやチョコよりは大人っぽいかななんて思ったりした。
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