押してダメでも押しますけど?
3 やっぱりチョコですか?
「そんなん、私に分かる訳が無い。」


居酒屋のカウンターで、片手にイモ焼酎のロック入りクラスを持った奈々がきっぱりと言う。


最近、社長のお使いもなければ、仕事も忙し過ぎてエトワールに全然行けてなかった私は、久しぶりに奈々と飲む事にしたのだ。


「大体、会った事もない男の不機嫌の理由何て分かる訳ないじゃん」


そういって、イモ焼酎ロックを流し込む姿は男前だ。



そんな奈々の言葉に反論の余地はない。


「・・・・はい。」



そりゃ、そうですよね。



「そんなに男心理解できるなら、この年まで独身でいないって。」


「え?奈々って結婚願望あるの?」


「無いよ。」


即答ですか・・・。



副社長に考えてと言われて1週間。


一応、考えては見たののわかるはずも無く。


肝心の社長は、ここ1週間は、機嫌だけじゃなくて顔色まで悪い。


これじゃあ、不機嫌の理由どころじゃなく、心配になって来た。



「糖分不足かな?」


「はぁ?!」


「だってさ、今まで角砂糖3つ入ったコーヒーを一日2回は飲んでたんだよ?

 それに、その上お菓子食べてさ。」


奈々はため息をついた。


「社長だって、子どもじゃないんだから、お菓子くらい自分で買えるわよ。

 それより、その『社長=お菓子』みたいな方程式やめてあげなさいよ。何か可哀想よ。」



何で、可哀想なんだ・・・


疑問に思う私に、奈々は呆れている。



「だって、それじゃあ、まるで子ども扱いじゃない。

 一応、大人の男なんだから子ども扱いは失礼よ。」


前に、私の仕事を子どものお守り扱いしたくせに・・・


でも・・・


「それ、副社長にも言われた。」


「何を?」


「『社長は大人の男』だって『社長に足りないのはチョコでもカステラでもなくてもっと別のモノ』だって」


それを聞いた奈々は、ちょっと考えてから言い放った。


「あんた・・・・それほぼ答えじゃん。」


予想外の言葉に驚いた。


「どこが?!」


そんな私を奈々は呆れた目で見て来る。



「あんた、仕事はできるのに、他が抜けてるのよね。」


「・・・・」


まぁ、否定は出来ませんけど。


「ホント、今まで何やって来たんだか」


真面目に勉強して、真面目に働いてきましたけど?


「分かったなら教えてよ。」


ふて腐れて、チューハイを飲む私に奈々はきっぱりと言った。


「嫌。」


「なんで?」


「その方が面白いから。」



・・・ケチ。



結局、終電ギリギリまで飲んでも奈々は何も教えてくれなかった。
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