押してダメでも押しますけど?
うちの会社のフロアについたけど、電気は点いていなかった。


そっと扉をあけると鍵は開いていたか、社長は中にいるのだろう。


「社長?」


真っ暗の中で呼びかけるが返事はない。


「社長」


もう少し声を張ると、応接室の方から声が聞こえて来た。


応接室に行くと、ソファーに座っている社長がいた。



「社長」


「立川さん、わざわざ悪かったね。」


電気の点いていない部屋の中、窓から入る外の明かりで微かに社長の姿が浮かび上がっている。


その姿はあまりにも綺麗で、電気を点けようとした手を止めてしまった。



入り口に立ち尽くしていると、社長がこちらに向って手を伸ばす。



社長に見とれていた私は、その行為に我に返った。



「すいません。エトワールのチョコです。」


社長に向って紙袋を差し出した。





しかし、社長は紙袋ではなく、私の手首を掴んだ。


「え?」


社長は、驚く私をゆっくりとでも、強い力で引き寄せる。



座っている社長の足と私の足が触れそうになる距離まで私を引き寄せると、社長は私を見上げた。


私を見上げるその瞳は、暗い部屋の中、外からの明かりに照らされてすこし光って見える。



それが、社長の綺麗な顔を神秘的に見せていてドキドキしてしまった。



「座って」



そう言われて、その言葉に引き寄せられる様に、社長の横に腰を下ろした。


社長は、私の手から紙袋を受け取るとテーブルの上に置いた後、ソファーの背もたれに体を預けて目を閉じた。


「食べないんですか?」



放された手が寂しく感じて、それを誤摩化すように尋ねる。


「ん。後で。」


そう言って動く気配はない。


私も、社長と同じ様にソファーに体を預けて目を閉じた。




目を閉じると、手の甲に社長の手が触れる。


少し驚いたけど、手を繋ぐより遠いが、微かに感じる温もりが心地よい。



久しぶりの社長と過ごす静かな空間が心地よくて、お酒のせいもあって、そのまま意識を手放した。



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