押してダメでも押しますけど?
日付が変わって家に到着した私は、ほろ酔い気分で鍵を取り出す。


片手にはエトワールの紙袋。


「社長のお使いが無くったって、たまには来なさいよ。」


そう言って奈々に持たされてた。


営業トークにも聞こえるが、その不機嫌な顔が照れていることを表していた。



美人でツンデレとか狡すぎる!



思い出し笑いを噛み締めながら鍵を差し込むと、スマホがなった。



「こんな時間に誰かな?」


そう思って着信画面を見ると『水嶋元』の文字が。


「え?社長??」


実は、社長について1年間、一度もプライベートな時間でかかって来た事がない社長からの着信に驚いた。



急いで家に入り、通話ボタンをタップする。



「はい、立川です。」


『もしもし、水嶋だけど・・・』



「はい、社長。どうされました?」


『・・・あのさ、会社にお菓子って置いてあるかな?』


「お菓子ですか?」


『あぁ。ちょっと食べたくて・・・』


「社長、今、会社なんですか?」


『ちょっと気になる仕事があってね・・・』



会社には何も置いていない。


私は自分が手に持っている紙袋を見つめた。



最近、元気の無い社長。


こんな時間まで、会社で仕事するなんて・・・



「あの、社長、まだ帰る予定はありませんか?」


『え?あぁ、さっき来たばかりだから、まだしばらくいるけど・・・』


「じゃあ、持って行きます。」


『え?悪いよ』


「大丈夫です。私、友人と飲んでいてまだ家に帰ってないんです。」


少し、嘘をついた。


『しかし・・・』


社長は何か言いたげだが、ここで引き下がるつもりはない。


「食べたいか食べたくないかでおっしゃってください!」


強めの口調で言えば、社長は小さな声で言った。



『・・・・食べたいです。』



「じゃあ、待ってて下さい。」


『ありがとう。』


「いいえ。」


私は通話を切って家を出た。


電車はもう無いから、タクシーで会社まで向った。
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