愛ニ狂ッタ人









「着いたよ」





稲生が私を連れてきたのは、小さなアパート。

不審がる私を気にせず、稲生は私の手を引いて、アパートの古びた階段を上がって行く。






「ここは、どこですか…?」

「ここは、俺の家だよ」

「ッ!?」





逃げようと、思い切り右手を自分の方へ引っ込めた。

だけど稲生は男で、私よりも力が強くて。

私の右手は、稲生に握られっぱなしになった。






「どこ行くんだよユキちゃん。
何もしないから、一緒に行こうぜ?」





何も言えずに首を振るばかりの私を、稲生は中へ私を連れこむ。

私はますます、ケイタイを強く握りしめた。





アパートの中は、殺風景だった。

家具などは全くない、まるで誰も住んでいないような、生活感のない部屋。

それがますます、私を恐怖へ陥れた。









< 152 / 234 >

この作品をシェア

pagetop