愛ニ狂ッタ人
「着いたよ」
稲生が私を連れてきたのは、小さなアパート。
不審がる私を気にせず、稲生は私の手を引いて、アパートの古びた階段を上がって行く。
「ここは、どこですか…?」
「ここは、俺の家だよ」
「ッ!?」
逃げようと、思い切り右手を自分の方へ引っ込めた。
だけど稲生は男で、私よりも力が強くて。
私の右手は、稲生に握られっぱなしになった。
「どこ行くんだよユキちゃん。
何もしないから、一緒に行こうぜ?」
何も言えずに首を振るばかりの私を、稲生は中へ私を連れこむ。
私はますます、ケイタイを強く握りしめた。
アパートの中は、殺風景だった。
家具などは全くない、まるで誰も住んでいないような、生活感のない部屋。
それがますます、私を恐怖へ陥れた。