暁天の星
え……?
全部がスローモーションに見えた。
だけどなんで…?
ナイフは1本も当たらず床に落ちた。
掠りもしなかった。
確実に5〜6本同時に投げられたはず。
彼女はちょっとだけ重心を右にずらしただけだった。
リーダーみたいな奴が目を見開く。
「お前っ…!!」
「何よ。」
「何しやがった!」
「別に。ちょっと避けただけでしょ?」
さも当然かのように言う彼女。
眉を寄せた別の男が、リーダーっぽい男にコソコソ話しかける。
シンとした室内では声を潜めたって意味のないことだけど。
「おい、どういうことだよ?」
「見ただろ?あの女、一瞬にして全ての方向から飛んでくる刃の軌道を見切った…!自分に当たらない場所を見つけたってわけだよ…!!」
そう言って頭をガシガシかいた。
完全に焦ってる様子が伺える。
深く息をする。
「…おい、お前ら…。今後一切、手加減するな…。この女…明らかに階級が違う…!生半可にやってたらこっちがやられる。
警戒レベル、マックスだ。
確実に仕留めろ。手段は厭わない。
………殺れ。」
…ゾッとした。
男が放った言葉が頭をぐるぐる回って。
全部が常人とはかけ離れてるのに、僕が今まで恐れてた奴らを打ち負かすこの女はなんなんだ…。
怖くて手が震えた。