いつかウェディングベル
「透、最近顔色が良くないわよ。疲れているの?それに出張が多くない?」


「大丈夫だ。少し疲れているだけだよ。加奈子がキスしてくれたらその疲れも吹き飛ぶんだけどね。」


「そんな冗談が言えるんなら大丈夫ね。」


「キスしてくれないのか?」


「冗談よ」


妻に秘密を持つことは心身ともにストレスが蓄積されるが、加奈子のキス一つで見事に回復されていくようだ。


だけど、表向きはそうでも内面はそうではない。だから、疲れは酷く夜になるとベッドに入るなり眠ってしまう。


加奈子も今は企画のことで頭が一杯のようだから、会社から帰宅すると俺と同じようによく眠っているようで助かっている。



連日、仕事の合間に加奈子の父親の病院へと足を運ぶと流石に疲れてしまう。


だけど、今、俺に出来るのはこれくらいだ。


加奈子の父親に、いや、義父に俺がしてやれるのはこれしかないから。俺は毎日、加奈子の話を義父に聞かせている。



眠っていて反応が無くてもいい。夢の中で聞いてくれたらいい。そして、義母にも加奈子の様子を伝えられたらそれで十分だ。



「加奈子がまだシングルマザーだと思い込んでいる職場の先輩社員に言い寄られているんですけど、どんなに拒否しても何度もモーションかけてくるから、昨日のことですけど、とうとうキレた加奈子に怒鳴られたんですよ。それも、職場で。」


吉富のあまりにも執拗な態度に加奈子の堪忍袋の緒がキレたようで、部長や課長はかなり驚いたそうだけど江崎は上機嫌だったとか。



「加奈子はその男だけじゃなくて他にも気に入られていて俺は気が気じゃないんですけどね。」


「なら、なんで公表せんのだ?加奈子じゃ嫁として恥ずかしいのか?」


「え?」



いきなりかすれた男の声が聞こえてくると何処からかと声の方を探ると、それは、ベッドに横になっている義父の声だった。

< 201 / 369 >

この作品をシェア

pagetop