いつかウェディングベル
吉富は俺の言葉に逆上したのか、或いは最初から俺を殴ろうと決意していたのか。吉富は躊躇うことなく俺の顔面へ見事に右ストレートを放った。
吉富の動きは予期していたが俺は敢えてそれを受けて立った。
恋敵とは言え、加奈子が辛く悲しんでいた時に芳樹が世話になったのは違いないのだ。吉富の協力があればこそ今の加奈子がいるのも俺は重々承知だ。
その当時の俺に言ってやりたいよ。すぐ傍に加奈子がいながら、そんな苦しむ加奈子を支えたのは吉富だったのだから。
俺はその頃は愛のない婚約者との関係をなんとか続けようと努力していたのだから。
「なんで抵抗しない?! なんで俺を殴らない?!」
「例えどんな理由があってもお前は加奈子を支えて来た。そんなお前に手は出せない。」
「・・・・俺だけを悪者にするつもりなのか?!! 専務!! あんたは彼女の為に何をしてきたからそんなに偉そうな態度を取っているんだよ?!!」
「加奈子が苦しんでいる間に俺の代わりにお前がいた。俺だって本当はずっと加奈子の傍にいたかったんだ。お前がしたように俺だって加奈子をずっと支えていたかったんだ。」
そうだ、俺は、どんなに加奈子を愛していたか。
それでも、俺と加奈子の関係を知らない親父に縁談を仕組まれ俺の意思には関係なく婚約させられたんだ。
得意先との婚約は簡単に破棄できるのもじゃない。だから、俺は加奈子を泣く泣く諦めたんだ。
芳樹が居るとも知らずに。
吉富の言う通りだ。俺は加奈子の為に何もしてやれなかった。それどころか奈落の底に突き落とした様なものだ。
だから、これからの人生を加奈子に捧げたいんだ。
だから、吉富なんかにそれを・・・・
「邪魔されては困るんだよ!!」
無意識の内に俺も年甲斐もなく吉富に殴りかかった。
俺は暴力に訴えることを嫌っていたし、専務と言う立場上暴力を振るうことで会社の評判に関わることを恐れている。最悪な場合は会社の株価にも影響を与える。
この拳一つで会社の運命が変わるかも知れないのに、加奈子の為に殴らずにはいられなかった。