みんなの冷蔵庫(仮)1
「行かないで下さい」


佐田さんが切ない声を上げた。

黒く奥深い光を宿した瞳が、苦しそうに私を見つめてきた。


「お願いします。行かないで下さい。もう絶対に怖い思いはさせませんから」


私は佐田さんの胸を拳で何度も叩きながら、その腕の中に飛び込んだ。

何度も何度も拳で叩き続け、
涙をスウェットに吸い込ませ、
背中にたくましい腕の温もりを感じて

また胸が苦しくなった。



私はもう、降りられない舟に乗ってしまっていた。



< 262 / 491 >

この作品をシェア

pagetop