カフェには黒豹と王子様がいます
 あ!そういえば、なんか忘れてた……。

「べ、別にこんな奴、意識なんかしねえよ」

 と、フイっと向こうに行ってしまう小野田先輩。

 私も仕事に戻ろう。

「西口」

「え?はい」

「もうさ、昔のことだから。……て言ってもやっぱり元子さんには弱いけど、前好きだった人とのことは、もう終わったことだから」

 なんか、私に弁解しているように聞こえちゃう。どうして?徳永先輩……。

「何言ってるんだろ、気にしないで。ごめん」

「と、徳永先輩」

 フロアの方に行こうとする徳永先輩を思わず呼び止めた。

 徳永先輩は背中を向けたままぼそっと言った。

「西口に、変な誤解はされたくなかっただけだから」

 フロアでお客様に笑顔を向ける徳永先輩をぼんやり見つめる私。

 このパニックの頭の中をなんとかする方法も思いつかないまま、閉店時間になった。

< 142 / 443 >

この作品をシェア

pagetop