カフェには黒豹と王子様がいます
 そのケーキは私が覚えた事なんて、ただのケーキの説明にすぎないと言わんばかりだった。

 口いっぱいに広がるチョコとコーヒーの香りと、ジュワッとしみこんだグランマニエの芳醇な味わい。そして、アクセントのオレンジピールとの相性は抜群で、チョコの甘さの中にオレンジピールの酸っぱさが絶妙な割合で出てくる。もう、体がとろけそうなくらい美味しい。

「このおいしさをお客様に届けたいです!」

「そこは自分で考えるところだね。どういう風にお客様に伝えるか、どういう表現で言うと伝わるか」

「どういう表現で言うと伝わるか……」

「ほら、ビスキュイとか言われてもピンとこない人はこないし、グランマニエがどういうお酒なのか知らない人も多いよね。ただの説明だけじゃ伝わらないよってことだよね」

「なるほど……」

 っていうか、じゃあ、さっきの私のケーキの説明はお客様には伝わらないってことなのか。

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