カフェには黒豹と王子様がいます
 ニコッと笑うと、安心した表情になった。

「ほんとに、心臓が止まるかと思った。あの時、頭から血を流して倒れてる西口を見た時は」

 辛そうな表情になる徳永先輩。

「気が動転して、何もできなかった。マスターがいなかったら、救急車を呼ぶこともできなかった」

 下を向く徳永先輩。

 先輩の握りこぶしに、涙が落ちる。

 徳永先輩が……泣いてる。

 胸がつぶれそう……。

 私はそっと先輩の頬に触れた。

 先輩はその手を握る。

 私の手のひらにキスをして。

 私をじっと見る。

 涙でぬれた徳永先輩が、椅子から立ち上がる。

 私の手を引き寄せて、抱きしめた。

「本当に、無事でよかった」

 私の頭に徳永先輩の頬の感触がある。

 抱きしめる力が少し強くなる。

 この腕の心地よさに何も考えられなくなる。

 ……ふとよぎる小野田先輩の顔。そして、徳永先輩への罪悪感。

 でも、もう少し、もう少しだけ甘えさせて。
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