カフェには黒豹と王子様がいます
「……僕、西口さん苦しめたくないや。もう、やめるね。早く西口さん治るといいね」

 豊川くんは徳永先輩にぺこっと頭を下げた。

 頭を下げたまま言った。

「徳永さん、もし、西口さんの声が出るようになったら、店に連れてきてください」

 パッと頭をあげて、涙を流したまま笑顔で言う。

「僕さ、西口さんの声、大好きなんだ。初めて会った時に聞いた「いらっしゃいませ」の声が忘れられないの。だから……」

 止まらない豊川くんの涙。

「さよなら」

 振り向いて、走って行ってしまった。

 徳永先輩の腕をつかむ私の手に、力が入る。

「西口?大丈夫か?」

 下を向いている私の頭を優しくなでる。

「帰ろう」

 そう言って、手をつないだまま家まで送ってくれた。

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