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「翔くん、一度病院に行きなさい」
「は?」
「あなたが最近おかしいって流星君から聞いたのよ」
「……」
「ずっと咳してるって」
「風邪だろ」
「風邪でも行きなさい。流星君がね、病院行けって言っても行かないって言いに来たのよ」
「余計な事言いやがって」
小さく呟く俺に沙世さんは眉を顰めた。
「余計なことじゃないでしょ?13時に検査予約してある。だから行くわよ」
「は?予約?」
「そう。そうでもしないと翔くん、行かないでしょ?」
「……」
「だからね、流星君が翔くんの昼の仕事がない日を、えーっと誰だっけ。あ、そうそう蓮斗君だっけ?その子から聞いたのよ」
「……」
「それじゃあ今日だって言うから予約とってたの」
「はぁ?意味分かんね」
「わかった?行くのよ。だから用意しなさいね」
沙世さんはため息を吐いて立ち上がり、スーパーの袋から出したものを冷蔵庫に入れていく。
「飲み物とかお肉、入れとくね」
「別に気使わなくってもいいっす」
「気なんて使ってないわよ。あ、それより彼女とまだ住んでるの?」
「住んでねぇよ。たまに来るだけ」
ほんとの、たまに。
最近はほとんど会ってねぇけど。
会いたいと思えば物凄く会いたくなる。
だけど、会うとこの先、会えない日々が続く事を思うと苦しくなる。
まぢで俺らしくねぇな、とつくづく思う。
だからと言って、俺らしいってなんだよ。とも思った。
「そっか。大切な子いるんだったら尚更病院に行きなさい。翔くんは言わないと行かないんだから」
「……」
「忙しいのはわかるけど、ちゃんと行きなさいって前から言ってるでしょ?」
「はいはい」
沙世さんにこれ以上言っても無駄だと思い、俺は適当に言葉を返し、洗面台に向かった。
冷たい水で眠気を払う。
それで眠さが吹っ飛ぶわけでもなく、俺は私服に着替えた。