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笑顔の裏腹

離れるのが平気じゃないと思ったのは俺の方だった。

ここ数日ずっとそんな事を考えて。

俺ってこんなに思い悩むやつだったんだって、初めて自分の事を改めて知った。


だからと言って、着いていくという選択は俺には全くなかった。


「来るのおそっ、」


結局、病院に来たのは流星に言われてから1週間後だった。

目の前の実香子は顔を顰めて深いため息を吐き出す。


「来たから別によくね?」

「先月も来てほしかったんだけど」

「ここの病院まで遠いんだよ」


沙世さんに連れられてきた病院。

前の結果が良くなかった所為か、1か月後に来ることになっていた検査も2か月を過ぎていた。


「遠くてもね、来なくちゃ。今日検査したら、前の病院から通院していいから。結果報告書も書いてもらうから」

「ん、」

「体調はどう?」

「普通」

「ビールで薬飲んじゃダメだよ」

「つか、実香子ちゃんまで母親気分ですか?」


顔を近づけてフッ笑を漏らすと、実香子は視線を逸らしてため息を吐いた。


「あのねぇ、心配してるんだけど。私、看護師ですから患者さんの身体は気にします」

「はいはい。そーっすね」

「って言うかさ、なんでユウトに頼んだの?」

「なんのこと?」


突然言って来た実香子の言葉に俺は首を傾げながら実香子を見つめた。


「何の事って、なんで忘れてんの?」

「あ、あー…」


実香子の困った顔を見てふと思い出した。

俺が行くはずだった彼氏役とやらに流星を行かせたことを。


「困るんだけど。今更そんなことされても。余計な事しないでよ」

「俺も行こうと思ってたけど、あの日は無理だったんだって。でもお前の困ってることは解決したんじゃねぇの?」

「したけど」

「だったらいいじゃねぇかよ」

「……」


納得がいかないかのように実香子は眉を寄せ、俺を見つめた。
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