タイムトラベラー・キス
「……送ってくれてありがとう」


竜見くんの言葉には何も返さずに、静かに車の扉を開けた。そして、彼の顔を見ることなく扉を閉め、すぐに家へと向かった。


彼がさっき言ったことは、多分彼の予想以上に、私の胸に突き刺さった。
年老いた母の顔が目にうかんで、心がつぶれそうに苦しくなる。


東京には雪がいる。
大好きな人と暮らす未来はきっと楽しい。
でも、どんどん年老いていく親を置いて、自分の幸せだけ求めていってもいいのだろうか。


……こういう悩みが、27歳の私を過去に行かせたのかもしれない。
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