タイムトラベラー・キス
――いつの間にか、聞こえなくなっていた映画の音。
確かに座っていたはずなのに、立っている感覚。

腰回りに置かれた大きな手。
私の顔を包み込む、ごつごつとした男性の手。


「なに?……もしかして、キスだけじゃ不満?」


見上げた先には、竜見くんよりも背が高くて、肩幅の広い……明らかに私より年上の男性がいた。

でも、この意地悪に笑って見下ろす感じ、私は知っている。
私の知っているアイツより大人びて、肌が黒くなくて、髪も短くないけど。

けど、でも……


「野々村……くん?」


おそるおそるその名前を口にすると、


「……雪って呼べって言っただろ」


そう言って、また私にキスをした。
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