タイムトラベラー・キス
「どうして、よりにもよって晃なんだよ……」
雪の声は、とても悲しそうだった。
怒鳴って私を怒るのかと思ったけど、そんなことは無くて。
泣いてしまうんじゃないかっていうほどの、か弱い声だった。
傷ついているのが電話の向こうからでも伝わって、辛くなる。
「ごめん。でも今はそれしか方法がないの。ちゃんとタイムトラベルしないといけないの。裏切るようなことをして、本当にごめん。でも裏切ったのは27歳の私じゃなくて、17歳の私だから。だから……未来の私を怒らないで……」
「お前が何言ってるのか……俺、正直よくわかんねぇよ。でも、それが全て本当なら……どうして傍にいない時に言ってくるんだよ。……どうしようもねぇだろ」
「ずっと言えなくて、本当にごめん……。でも私、雪にもう隠し事したくなかったの……最後に、真っ直ぐに向き合いたかったから」
”泣いてはいけない”って思っていたのに、大粒の涙が次々と頬を伝う。
私が彼にひどいことをしたのに、泣きたいのは彼のほうなのに。
泣いたって許されるわけないのに、どうして泣けてくるんだろう。
……気がつけば、もう12時を回っていて、私たちの記念日は最悪な始まりとなった。
「ごめん、ちょっと冷静に考えたいから、電話切っていいかな」
そう言って、彼は静かに電話を切った。